こんにちは。大田区議会議員の佐藤なおみです。
本日は大田区の空き家問題について様々な角度から詳しく書いていきたいと思います。
あなたの隣にもあるかもしれない、空き家の姿
大田区の閑静な住宅街を歩いていると、ふと時間が止まったかのような一軒家が目に留まることがあります。庭には雑草が生い茂り、窓は固く閉ざされ、人の気配が全くしない家。それこそが、今、日本中で、そしてこの大田区で深刻化している「空き家」の姿です。
「持ち主がいるのだから、他人が口を出すことではない」。そう思われるかもしれません。しかし、空き家問題は単なる景観の問題ではなく、防災、防犯、衛生、そして地域コミュニティの未来そのものを脅かす「静かな時限爆弾」なのです。
放置すると、具体的にどのような危険があるのでしょうか?
そして、私たちの大田区は、この問題にどう立ち向かい、どのような未来を描こうとしているのでしょうか?
この記事では、大田区議会議員である私が、空き家問題の「歴史的背景」から「未来の展望」まで、皆様が抱えるであろう疑問のすべてにお答えするべく、徹底的に解説していきます。これは、遠いどこかの話ではありません。あなたと、あなたの大切なまちの物語です。
歴史と背景 ― なぜ大田区で「空き家」は生まれたのか?
空き家問題は、ある日突然現れたわけではありません。その根源は、戦後の日本の、そして大田区の歩みそのものに深く関わっています。
1. 高度経済成長と「マイホーム」の夢
戦後、日本の経済が奇跡的な復興を遂げた高度経済成長期。多くの人々が都心で働き、そのベッドタウンとして大田区の人口は急増しました。人々はここに土地を求め、念願の「マイホーム」を建て、家族を育みました。今、空き家となっている家の多くは、この時代に建てられた、家族の夢と希望が詰まった家なのです。
2. 社会構造の劇的な変化
しかし、時代は大きく変わりました。
少子高齢化:
当時働き盛りだった世代は高齢となり、施設に入居したり、亡くなられたりするケースが増えました。一方、子どもたちの数は減り、家を継ぐ若者が少なくなっています。
核家族化とライフスタイルの多様化:
かつては親の家を子が継ぐのが当たり前でしたが、今は子が独立し、別の場所に新たな家庭を築くのが一般的です。職住近接を求め、都心のマンションを選ぶ若者も増えました。
3. 複雑な「相続」という壁
家を建てた親が亡くなった時、最大の壁として立ちはだかるのが「相続」です。
権利関係の複雑化:
相続人が複数いる場合、「誰が家を継ぐのか」「どうやって財産を分けるのか」で話がまとまらず、結果的に誰も管理しないまま放置されてしまうケースが後を絶ちません。
感情的な問題:
「親が大切にしていた家だから壊せない」「兄弟の誰かがいつか使うかもしれない」といった、故人への想いや家族間の遠慮が、合理的な判断を難しくさせているのです。
4. 税制がもたらした「放置のインセンティブ」
そして、問題をさらに根深くしているのが「固定資産税」の仕組みです。土地の上に住宅が建っていると、「住宅用地の特例」が適用され、土地の固定資産税が最大で6分の1にまで減額されます。
逆に言えば、老朽化した危険な家でも、解体して更地にしてしまうと、この特例が外れて税金が最大6倍に跳ね上がってしまうのです。これが、「管理はできないけれど、税金のために解体もできない」という、所有者にとってのジレンマを生み、空き家を放置する大きな要因となってきました。
これらの歴史的・社会的な要因が複雑に絡み合い、大田区のかつての「夢のマイホーム」が、今の「悩みのタネ」である空き家へと姿を変えてしまったのです。
現状 ― 大田区の空き家問題の「いま」
では、具体的に大田区の現状はどうなっているのでしょうか。総務省が5年ごとに行う「住宅・土地統計調査」の数字を見ると、問題の深刻さが浮き彫りになります。
最新である令和5年(2023年)の調査(速報値)では、大田区内の空き家数は約45,500戸、空き家率は10.8%に達し、過去最多を更新する見込みです。これは、区内にある住宅の約9軒に1軒が空き家であることを意味しており、極めて憂慮すべき事態です。
この問題は、今に始まったことではありません。過去からの推移を見ると、空き家が一貫して増え続けてきた事実が見て取れます。
大田区の空き家数・空き家率の推移
調査年 | 空き家数 | 空き家率 |
平成15年(2003年) | 約35,100戸 | 9.5% |
平成20年(2008年) | 約38,400戸 | 9.8% |
平成25年(2013年) | 約41,400戸 | 10.2% |
平成30年(2018年) | 約44,400戸 | 10.6% |
令和5年(2023年) | 約45,500戸 | 10.8% |
※総務省「住宅・土地統計調査」を基に作成
このように、この20年間で、大田区の空き家は実に1万戸以上も増加してしまったのです。毎年平均500戸ずつ、私たちのまちのどこかで、灯りの消えた家が増え続けている。これが、私たちが直視しなければならない現実です。
そして、すべての空き家が問題というわけではありません。法律(空家等対策の推進に関する特別措置法)では、特に危険な状態にある空き家を**「特定空家等」**と定義しています。
「特定空家等」とは?
著しく衛生上有害となるおそれのある状態(ごみの放置、害虫・害獣の発生源となっているなど)
適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
大田区は、こうした「特定空家等」に対して、所有者に助言や指導、勧告、命令を行うことができます。そして、所有者が命令に従わない場合、最終的には行政が代わりに解体などを行う「行政代執行」に踏み切ることも可能です。これは、個人の財産権への重大な介入ですが、周辺住民の安全を守るためにはやむを得ない、最後の手段なのです。
特に、大田区には木造住宅が密集している地域(木密地域)も多く残っています。こうした地域で危険な空き家が放置されれば、地震や火災の際に倒壊して避難路を塞いだり、延焼の原因になったりするリスクが格段に高まります。
課題と問題 ― 「放置」がもたらす5つのリスク
空き家を放置することは、所有者にとっても、地域社会にとっても、数多くのリスクを生み出します。
リスク1:【防災・防犯】地域全体の安全を脅かす
災害時の危険:
地震で倒壊し、隣家を破壊したり、道路を塞いで消防車や救急車の通行を妨げたりする恐れがあります。台風で屋根や壁が飛散し、周囲に被害を及ぼすこともあります。
犯罪の温床:
不審者の侵入や放火、不法投棄のターゲットになりやすく、地域の治安を悪化させる原因となります。
リスク2:【衛生・景観】住環境を悪化させる
害虫・害獣の発生:
放置された家屋は、ネズミやハクビシン、スズメバチなどの巣となり、周辺の衛生環境を悪化させます。
景観の悪化:
伸び放題の雑草や朽ちた外壁は、まちの美しい景観を損ない、住む人の心にも暗い影を落とします。
リスク3:【コミュニティ】地域の活力を奪う
空き家が増えることは、そこに住む人が減ることを意味します。地域の担い手が減り、町会・自治会活動が停滞し、子どもたちの声が聞こえなくなり、夜道は暗くなります。それは、地域コミュニティの緩やかな衰退に直結するのです。
リスク4:【資産価値】近隣の不動産価値を下げる
管理不全な空き家が近所にあると、その地域のイメージが悪化し、周辺の土地や建物の資産価値まで下落させてしまう可能性があります。
リスク5:【所有者】負担だけが増え続ける
空き家は、持っているだけで固定資産税や維持管理費がかかります。さらに、2023年の法改正により、管理が不十分な「管理不全空家」に指定されると、たとえ危険な「特定空家」でなくても、固定資産税の優遇措置が解除されることになりました。つまり、「とりあえず置いておくだけ」のリスクが格段に高まったのです。万が一、空き家が原因で他人に損害を与えてしまった場合、所有者は莫大な損害賠償責任を問われる可能性もあります。
(第四章) 未来 ― 大田区が目指す対策と、私たちにできること
この深刻な問題に対し、指をこまねいているわけにはいきません。大田区は、空き家を「問題」から「地域資源」へと転換させるべく、様々な対策を進めています。
1. 大田区の総合的な取り組み
ワンストップ相談窓口の設置:
どこに相談していいか分からない所有者のために、区役所では法律、税金、不動産の専門家と連携した相談体制を整えています。「相続したけれど、どうしたら…」「管理が大変で…」といった悩みに、寄り添って対応します。一人で抱え込まないでください。
各種助成金・補助金制度
解体費用の助成:
危険な空き家の解体にかかる費用の一部を区が助成する制度があります。
改修費用の助成:
空き家をリフォームして、子育て世帯向けの住宅や地域の交流スペースとして活用する場合などに、改修費用の一部を助成します。
「大田区空き家バンク」制度の活用:
空き家を「売りたい」「貸したい」所有者と、「買いたい」「借りたい」利用者をマッチングさせる仕組みです。市場に出回りにくい物件も、新たな担い手へと繋ぎます。
利活用団体の支援:
NPOや地域団体が空き家を借り受け、子ども食堂、地域サロン、シェアハウスなどに再生する取り組みを、区として積極的に後押ししています。
2. ピンチをチャンスに変える未来のビジョン
空き家は、視点を変えれば、新たな価値を生み出す「宝の原石」です。
若者・子育て世代の呼び込み:
きれいにリフォームされた戸建て住宅は、マンションにはない魅力があります。手頃な家賃で提供することで、若い世代を地域に呼び戻す起爆剤となり得ます。
新たなコミュニティ拠点へ:
趣味の工房、アーティストのアトリエ、学生のシェアハウス、地域の歴史を伝える小さな資料館など、空き家の可能性は無限大です。
福祉への活用:
高齢者向けのグループホームや、障がいのある方のためのケア付き住宅など、地域の福祉ニーズに応える場としての活用も期待されています。
3. 区民の皆様一人ひとりへのお願い
この問題の解決には、行政の力だけでは限界があります。
空き家を所有されている方へ:
どうか一人で悩まず、まずは大田区の相談窓口かわたし、佐藤なおみまでご連絡ください。あなたの家の未来について、一緒に考えさせてください。早めの相談が、選択肢を広げます。
近隣の空き家にお困りの方へ:
危険な状態の空き家を見かけた際は、区役所にご一報ください。皆様からの情報が、迅速な対応の第一歩となります。
すべての区民の皆様へ:
この問題を「他人事」とせず、我がまちの未来を考えるきっかけとしてください。地域の空き家がどうなれば良いか、ぜひ町会や地域の集まりで話し合ってみてください。
「負の遺産」を「未来への資産」へ
空き家問題は、日本の社会構造の変化が生んだ、避けては通れない課題です。しかし、それは決して解決不可能な問題ではありません。
一軒一軒の空き家には、かつてそこで営まれた家族の歴史と物語があります。その想いを尊重しつつ、新たな息吹を吹き込み、次の世代へと繋いでいく。それが、私たちの責務です。
私、佐藤なおみは、議会での政策提言はもちろんのこと、地域に眠る空き家という「資源」と、それを活用したいという「想い」とを繋ぐ架け橋となるべく、全力で活動を続けてまいります。
大田区に点在する「古い空き家」の時計の針を止め、それらを地域の未来を照らす「希望の灯火」へと変えていくために。皆様と共に、知恵を出し合い、汗を流していきたいと心から願っています。
大田区議会議員 佐藤 なおみ
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