こんにちは。大田区議会議員の佐藤なおみです。
区議会議員として活動していると、様々な光景に出会います。ある雨の日の夜、JR蒲田駅近くの公園で、ずぶ濡れになりながら段ボールの上でじっと体を丸めている男性の姿が目に留まりました。その寂しげな背中を見た瞬間、私の胸は締め付けられ、遠い昔の記憶が鮮烈に蘇ってきました。
それは、ただ「気の毒だ」という感情ではありません。彼の瞳の奥に、かつてどうしようもない貧しさの中で、社会の片隅で息を潜めるように生きていた幼い頃の自分自身の姿が、はっきりと見えたのです。
この記事では、なぜ私が大田区のホームレス問題、そしてその背景にある貧困問題にこれほどまでに心を砕き、人生を懸けて取り組もうとしているのか、その原点である私の個人的な体験をお話しさせてください。これは、単なる政策提言ではありません。私の思いが詰まった政策です。
(第一章) 私の原体験:貧困の記憶と「見えない壁」
今でこそ、皆様の信託を受け、大田区議会議員という職責を担わせていただいておりますが、私の幼少期は、決して恵まれたものではありませんでした。物心ついた頃には、家庭は経済的に極めて厳しい状況にあり、「今日をどう生きるか」が常に最大のテーマでした。
お腹が空きすぎて、公園に生えている草や、食べられると言われている野草を口にしたことが、一度や二度ではありませんでした。もちろん、子どもながらに「これは普通のことじゃない」とわかっていました。友達が美味しそうにお菓子を食べているのを、ただ黙って見つめることしかできない。遠足のお知らせのプリントを、親に渡すのが怖い。そんな日々でした。
当時、私たちが生活保護を受けていたかどうか、幼かった私には定かではありません。しかし、行政からの何らかの支援がなければ、私たち家族が生きていくことは不可能だっただろうと感じています。常に家の中には、お金のことで張り詰めた空気が流れ、大人たちの疲弊した顔がありました。
貧困が奪うのは、お金だけではありません。それは、子どもの心から「自信」と「希望」を静かに、しかし確実に奪い去っていくのです。
「うちは貧しいから、あれもできない」
「どうせ私なんて、頑張っても無駄だ」
そう思うことで、自分自身に言い訳をし、心を保っていたのかもしれません。社会との間には、分厚くて冷たい「見えない壁」が存在するように感じていました。周りの誰もが、自分たちとは違う世界で、幸せに生きているように見えたのです。この壁のこちら側で、私たちは社会から忘れられた存在なのだと、本気で思っていました。
この経験は、私の身体と心に、消えることのない傷跡として刻まれています。しかし同時に、この経験こそが、私の政治家としてのすべての活動の原動力となっています。あの時感じた悔しさ、寂しさ、そして社会への絶望感。同じ想いを、今この大田区で誰にもさせてはならない。その一心です。
(第二章) 大田区の「いま」と重なる、かつての私の風景
議員となり、大田区が抱える課題を深く知る中で、私が幼い頃に感じていた「見えない壁」が、形を変えて今も厳然と存在することに気づかされます。
一般的に「ホームレス」というと、路上で生活する方々を思い浮かべる方が多いかもしれません。大田区が定期的に行っている調査でも、区内の路上生活者の方の数は報告されています。しかし、問題はそれだけではありません。
DVや家庭内の問題から逃れ、友人の家を泊まり歩くしかない女性たち。
病気や失業をきっかけに家賃が払えなくなり、アパートを追い出される寸前の高齢者。
こうした人々は、統計上の「ホームレス」にはカウントされにくい、「見えないホームレス」とも言える存在です。彼ら、彼女らは、まさに私がかつて感じたように、社会との繋がりが断たれ、孤立という壁の内側で必死に助けを求めているのです。
大田区には、住居を失う恐れのある方へ家賃相当額を支給する「住居確保給付金」や、一時的な宿泊場所を提供する「一時生活支援事業」といった制度があります。これらは非常に重要なセーフティネットであり、私も議会でその拡充を訴えてきました。
しかし、制度の存在を知らなかったり、知っていても「自分なんかが相談に行っていいのだろうか」とためらったり、複雑な手続きを前に心が折れてしまったりする方が、あまりにも多いのが現実です。役所の窓口という「壁」を、超えられないのです。
私があの公園で草を食べていた時、もし誰か一人でも「どうしたの?」と声をかけてくれる大人がいたら。もし、親が安心して「助けてください」と言える場所があったなら。私の心は、少しは救われたかもしれません。
だからこそ、今の大田区に必要なのは、制度をただ用意するだけでなく、壁の内側にいる人の元へ、私たちから手を差し伸べる「アウトリーチ(訪問支援)」であり、一人ひとりの心に寄り添う「伴走型(ばんそうがた)支援」なのです。
(第三章) 「自己責任」で終わらせない。大田区に必要な具体的対策
貧困やホームレスの問題は、決して「本人の努力不足」や「自己責任」で片付けてはならない、社会全体の構造的な問題です。私の経験からも、それは断言できます。子どもは、生まれる環境を選べません。大人だって、一つの不運な出来事をきっかけに、誰でも坂道を転がり落ちる可能性があるのです。
だからこそ、政治の役割があります。私は、自身の経験を踏まえ、大田区で以下の対策を強力に推進していく必要があると考えています。
1.「入口支援」の徹底強化 ~誰も路上に出さないために~
ホームレス状態になってから支援するのでは、ご本人の心身の負担は計り知れません。最も重要なのは、住まいを失う前に食い止めることです。
●相談窓口の周知徹底とワンストップ化
「住まいを失いそう」と感じた人が、区役所のどこに行けば良いか迷うことがないよう、LINEなども活用した周知を強化します。また、生活、仕事、心の問題まで、一つの窓口で総合的に相談できる体制を構築します。
●「住居確保給付金」の柔軟な運用
申請手続きの簡素化や、支給要件の緩和を国や都に働きかけ続けると共に、区独自の柔軟な支援ができないか、常に模索します。失業していなくても、収入が激減すれば対象になることを、もっと広く知らせるべきです。
2.「緊急避難」の選択肢の多様化 ~今夜、安心して眠れる場所を~
すでに住まいを失ってしまった方には、一刻も早い保護が必要です。
●シェルターの機能強化と個室化
プライバシーが守られ、安心して心と体を休められる環境が必要です。既存の施設だけでなく、民間アパートの借り上げなども活用し、多様なニーズに応えられる避難場所を確保します。特に、女性や若者が安心して利用できる場所の拡充は急務です。
3.「出口支援」と「伴走」の充実 ~自立と社会復帰に向けて~
住まいを確保した後の支援こそが、本当の意味での自立に繋がります。
●就労支援と生活サポートの一体提供
ハローワークへの同行、履歴書の書き方相談といった就労支援と同時に、金銭管理や健康相談、地域コミュニティとの繋がり作りなど、生活全般を支える専門の支援員(ケースワーカー)を増員し、一人ひとりに寄り添う「伴走型支援」を徹底します。一度失敗しても、何度でもやり直せる。そんな社会を目指せたらと思います。
4.「貧困の連鎖」を断ち切るための未来への投資
そして何より、私のような経験をする子どもを、これ以上この大田区に生み出してはなりません。
●子どもの貧困対策の抜本的強化
無料または低額で利用できる学習支援の場の拡充、栄養バランスの取れた食事を提供する「子ども食堂」への支援強化、そして、給付金など経済的支援を、親の元にではなく、本当に子どものために使われる仕組みづくりを進めます。
まとめ:温かい人間関係がセーフティネットとなる大田区へ
私たちが本当に求めているのは、お金や物だけではないのかもしれません。それは、「あなたは一人じゃない」「私たちは、あなたを気にかけている」という、人との繋がりや温もりではないでしょうか。
制度や政策はもちろん重要です。しかし、それだけでは人の心は救えません。最後のセーフティネットは、「人と人との温かい関係性」だと私は信じています。
私の原動力は、怒りや悔しさではありません。あの時、誰かにそうしてほしかったという切なる願い。そして、貧しさのどん底にいた私を、見捨てずに支えてくれた誰かがいた(のかもしれない)という、かすかな希望と感謝です。
だから私は、議員として、一人の人間として、声を上げ続けたいと思います。
「助けて」と言えない人の、小さなSOSに耳を傾け、「自己責任」という冷たい言葉で見放すようなことのないように。
この大田区を、制度だけでなく、人の温もりによって、誰もが見捨てられることのない、優しいまちにしていくこと。
それが、公園の草を食べて生き延びた私の生涯を懸けた使命でもあるんかなと思っています。
あなたの声を私に聞かせてください。一緒に、変えていきましょう。
大田区議会議員 佐藤 なおみ
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