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大田区の「妊婦タクシー」制度を「佐藤なおみ」が解説します。

こんにちは。大田区議会議員の佐藤なおみです。
今日は大田区の妊婦さんに適用される制度、通称「妊婦タクシー」について書いてみたいと思います。

20年前、たった一人で向かった分娩室

今から約20年前のことです。私は当時、お腹にいた三番目と四番目の子の出産をそれぞれ一人で迎えました。陣痛が始まり、痛みに耐えながら、自ら車のハンドルを握って病院へ向かったのです。病院に到着し、事情を話すと、助産師さんや先生方は「ありえない!」と目を丸くして驚いていました。

無謀だと思われるかもしれません。しかし、当時の私には、他に選択肢がありませんでした。すぐに頼れる親族が近くにおらず、「自分の力で、この子を産みに行かなければ」と、ただその一心でした。幸い母子ともに無事でしたが、陣痛の波の合間に運転したあの道のりの心細さ、そして「なぜ私は、こんな時一人なのだろう」と感じた寂しさを、忘れることはできません。

だからこそ、大田区の「妊婦タクシー」という制度について耳にするとき、私の心には特別な想いがこみ上げます。それは、あの日の私のような想いをするお母さんを、一人でも減らしたいという切なる願いです。

この記事では、大田区の妊婦タクシー制度について、その成り立ちから未来の課題まで、私の経験と議員としての視点を交えながら、皆様に知っていただきたい全てをお伝えします。

歴史と背景 ― なぜ「妊婦タクシー」が必要になったのか

私が一人で出産に向かっていた20年前、今のような便利な制度はもちろんありませんでした。当時、陣痛が来た妊婦さんがタクシーに乗ろうとしても、「もし破水したら…」というリスクから、乗車を断られてしまうケースが少なくありませんでした。自家用車がない家庭は、救急車を呼ぶべきか迷いながら、不安な時間を過ごしていたのです。

この状況が変わるきっかけとなったのが、社会構造の変化です。

かつてのように祖父母が同居する大家族は減り、都市部では「核家族」が当たり前になりました。ご主人の仕事が多忙で不在がちだったり、ご近所付き合いが希薄化したりする中で、いざという時に頼れる人が近くにいない「孤立した出産(孤育て)」という問題が、静かに広がっていきました。

この深刻な社会的ニーズに応える形で、一部のタクシー会社が「社会貢献(CSR)」の一環として、専門の講習を受けたドライバーが対応する「陣痛タクシー」サービスを始めました。これが、現在の妊婦タクシーの原型です。民間企業の努力から始まったこの小さな灯火が、行政を動かし、今の大田区の支援制度へと繋がっていくのです。

大田区の妊婦タクシー制度を徹底活用する

現在、大田区の妊婦タクシー制度は、「①民間タクシー会社のサービス」と「②大田区からの経済的支援」という、二つの大きな柱で成り立っています。

① 民間タクシー会社の「妊婦支援サービス」
日本交通などの大手タクシー会社が提供する、事前登録制の無料サービスです。

事前登録:
自宅住所、かかりつけの病院、出産予定日などを登録しておけば、陣痛時に電話一本で、道案内不要で迎えに来てくれます。

専門ドライバー:
妊婦さんへの対応講習を受けたドライバーが担当します。

万全の準備:
破水に備えた防水シートなどが完備されており、安心して乗車できます。

② 大田区の経済的支援「ゆりかごギフト」
大田区では「出産・子育て応援事業」として、妊娠届を提出した妊婦さんに対し、5万円分のギフトカード「ゆりかごギフト」を支給しています。このギフトカードは、上記の妊婦タクシーの支払いに利用することができます。

具体的な使い方:4ステップ

タクシー会社に事前登録する:
スマホやPCから、利用したいタクシー会社のサイトで「妊婦支援タクシー」や「陣痛タクシー」に登録を済ませます(無料)。

大田区に妊娠届を提出する:
区の窓口で妊娠届を提出し、母子健康手帳を受け取ります。

「ゆりかご面接」を受ける:
区の保健師など専門職と面談し、妊娠中の不安などを相談します。この面談がギフト支給の条件です。

ギフトカードを受け取る:
面談後、ご自宅に5万円分のギフトカードが郵送されます。

これで準備は完了です。
あとは必要な時にタクシーを呼び、支払いにギフトカードを活用してください。

活用方法 ― 陣痛時だけじゃない賢い使い方

この制度の素晴らしい点は、陣痛の時以外にも利用できることです。

妊婦健診の通院に:
つわりが酷い時期や、お腹が大きくなって移動が大変な時の定期健診に。

急な体調不良の時に:
夜間や休日に急な出血や腹痛があり、病院に連絡した上で「すぐに来てください」と言われた時に。

産後の退院時に:
赤ちゃんと一緒に、たくさんの荷物を持って自宅へ帰る時に。上の子がいる場合も安心です。

乳幼児健診や予防接種に:
ギフトカードが余った場合、産後の赤ちゃんの健診や予防接種での移動にも利用できます。

5万円という金額は、大田区内の移動であれば、かなりの回数を利用できます。どうか「陣痛の時だけ」と思わずに、妊娠中から産後まで、お母さんと赤ちゃんの「足」として積極的にご活用ください。

問題点と課題点 ― 制度を、もっと身近なものにするために

便利な制度ですが、まだまだ改善すべき点もあります。議員として、そして母として、私が感じている課題は以下の通りです。

「知らない」という壁(周知不足の問題):
これほど手厚い制度があるにも関わらず、「知らなかった」「使い方がよく分からなかった」という声を耳にします。特に、大田区の経済的支援と民間のタクシーサービスが連携していることが、十分に伝わっていません。

アクセスの壁(情報格差の問題):
タクシー会社の登録はインターネットが中心です。日本語の読み書きやスマホ操作が苦手な方、外国籍の方などが、情報から取り残されてしまう可能性があります。

サービスの壁(地域・時間帯の問題):
「いざ呼んでも、すぐ来てくれるの?」という根本的な不安は残ります。特に、タクシーが捕まりにくい早朝深夜や、地域によっては配車に時間がかかる可能性があります。

心理的な壁(遠慮の問題):
「これくらいのことでタクシーを呼ぶのは申し訳ない」と、利用をためらってしまう妊婦さんもいます。

これらの課題を一つひとつ解消していくことが、政治の役割だと考えています。

そして未来へ ― 「一人で産む」を、過去の物語に

私が経験した「一人での出産」は、20年前の、そして個人的な出来事かもしれません。しかし、その根底にある「頼れる人がいない」という孤独や不安は、今の時代を生きる多くのお母さんたちが、形を変えて抱えているものです。

政治の光は、最も暗く、声の届きにくい場所にこそ、当てられなければなりません。
私は、この妊婦タクシー制度を、単なる移動支援サービスではなく、「社会全体で、新しい命の誕生を支えている」という、大田区からの温かいメッセージだと考えています。

まとめ

以上のような課題や問題点も多くある中、私、佐藤なおみは以下のような取り組みについて強化できたらと考えております。

徹底した周知活動:
区の広報だけでなく、産婦人科や母親学級など、妊婦さんが必ず訪れる場所で分かりやすい情報提供。

誰一人取り残さないサポート:
多言語対応や、電話一本で登録代行ができるような支援体制の働きかけ。

タクシー業界との連携強化:
区とタクシー事業者が連携し、配車の実態を共有。且つサービスの質向上。

20年前、暗い夜道を一人で運転しながら、私は新しい命の誕生に喜びを感じながらも社会からの孤立を感じていました。
これからの大田区では、すべての妊婦さんが「あなたは一人じゃない」と感じられる。陣痛が来た時に、不安ではなく「安心」を真っ先に感じられる。そんな温かい地域社会を創ること。それが、あの日の自分自身への、そして未来を生きるすべてのお母さんと子どもたちへの約束に出来たらと思います。

大田区議会議員 佐藤 なおみ

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