「同じ仕事をしても、同じ評価ではなかった」
派遣社員から脱せられないシングルマザーとして歩んだ日々から大田区のこれからを考える
こんにちは。大田区議会議員の佐藤なおみです。
私には4人の子どもがいます。今では1人は独立しそれぞれが自分の道を歩んでいますが、数年前まではシングルマザーとして毎日を精一杯生きる日々を過ごしていました。
その頃の生活は、言葉にすると簡単ですが実際は“生きること”そのものが仕事のような毎日でした。朝早くにご飯を作り子どもたちを送り出してから職場へ。帰宅すれば洗濯、夕食の支度、学校の書類の確認、夜が終わるころにはようやく自分の時間が数分あるかないか。
それでも、子どもたちの寝顔を見ると「明日も頑張らなきゃ」と思えました。
派遣という立場で感じた“見えない線”
当時、私は派遣社員として働いていました。
正社員の方と同じように業務をこなし、ときにはその方々が担当しない仕事まで引き受けることもありました。GWも「人手が足りない」と言われれば出勤しましたし、年末年始も可能な限り会社に顔を出しました。
子どもたちには少し寂しい思いをさせたかもしれませんが、それでも生活のために働くしかありませんでした。それでも、どれほど頑張っても正社員にはなれませんでした。
同じ机で同じ業務をして同じ責任を背負っているのに待遇も賃金もまるで違う、そんな「見えない線」が確かに存在していました。
派遣だから仕方ない、契約だから無理という言葉を何度も聞きました。
でも子どもを育てながら働く母親にとっては「仕方ない」では済まされません。
日々の生活費、給食費、学用品、塾代、それらは現実として目の前にありますし、正社員という立場を得られないことで、社会から“半分だけ支えられている”ような感覚がずっとありました。
“制度のすき間”に落ちるということ
当時の私は、児童扶養手当などの支援制度も利用していましたが、実際に制度を使ってみると書類や条件の壁が思った以上に高いことを痛感しました。少しでも収入が増えると支給額が減り「これでは頑張るほど損をする」と感じたこともあります。
区役所の窓口で「条件に当てはまらない」と言われたときの無力感も今でも忘れられません。
(この時は大田区の区役所ではありませんでした。)
行政の制度はただの書類や金銭の流れではなく、「人の涙を減らす仕組み」であってほしいとあの頃からずっと考えていました。もちろん職員の方々は一生懸命対応してくださいます。
けれど、“制度をつくる側”と“支援を必要とする側”の間には、見えにくい距離があるように感じるのです。ほんの少しの柔軟さ、ほんの少しの温かさで救われる場面が現場にはたくさんあると感じております。
「働ける」と「安心して働ける」は違う
働く場所があることと、安心して働けることは、まったく別のことだと思います。
保育園の預かり時間が延びても、子どもが熱を出せば仕事を休まざるを得ず、シフトを代わってもらえる人がいなければ、迷惑をかけるのではないかと不安になる。
そうして何度も肩身の狭い思いをしてきました。
職場には理解のある方もたくさんいましたが、それでも当時の社会全体がまだ「母親が子育てを理由に休むこと」を“特別なこと”と捉えていたように思います。私は、もっと自然に“子どもを育てながら働ける社会”を目指したいと考えています。
そのためには行政だけでなく、企業の働き方の見直しも欠かせません。
大田区には多くの中小企業がありますが、その強みは「現場の柔軟さ」だと感じています。
それぞれの企業が少しずつ働き方を調整できれば、子育て中の方や介護を担う方も、より安心して働けるようになるのではないでしょうか。
支え合う地域の力を信じて
シングルマザーとしての生活を振り返ると、私は本当に多くの方に助けられてきました。近所の方が子どもを一時的に見てくださったり、ママ友が夕方のお迎えを代わってくれたり。「助けて」と言葉にすることは勇気がいりますが、言えば必ず誰かが手を差し伸べてくれる。
その経験が私の今の活動の原点になっています。
大田区は、人と人とのつながりがまだ息づいている街です。この地域の力を生かしながら、行政と地域、企業が支え合える仕組みを考えていきたいと思っています。
たとえば、子育て世帯を地域で支える「シェアワーク」や「短時間正社員制度」。
あるいは、子どもを持つ親が安心して働けるように、地域の中で小さな支援の輪を広げる取り組みも検討できるかもしれません。制度の整備だけでなく、“心の支え合い”を形にすることがこれからの区政に求められているのではないでしょうか。
「働きたい」と思える社会をつくるために
政治や行政ができることは限られています。
けれど、制度をつくる人間が「現場の声」を聞く姿勢を持つことはいつでもできます。
「こういうことが困っている」
そうした声をどうすれば制度の中に反映できるか。
今の社会は、働く母親にとって決してやさしくはありません。
しかし、“頑張っているのに報われない人”を見過ごさない仕組みを少しずつでも整えていくことが大切だと思っています。そのために現場の声を集め、具体的な政策へとつなげていく方法を日々検討しております。
未来の子どもたちのために
私があの頃一番感じていたのは、「子どもに同じ思いをさせたくない」ということでした。母親が頑張れば頑張るほど苦しくなる社会では、子どもも夢を持ちにくくなってしまいます。
子どもたちが「大人になるのが楽しみ」と思える社会をどうすれば実現できるか。
その問いに今も答えを探しているところです。
行政や政治は、遠いところにあるものではなく、日々の暮らしの中で小さな安心を生み出す仕組みであるべきだと思っています。“暮らし”と“政治”の距離を少しでも近づけられるように、現場の声を聴きながらこれからも丁寧に考えてまいりたいと思います。
おわりに
あの頃の私は将来のことを考える余裕もありませんでした。
けれど振り返ってみると、どんな日々も無駄ではなかったと感じます。
苦しい経験の中にこそ社会を変えるための気づきがあったのだと思います。
同じように今、毎日を必死に生きている方々が少しでも希望を持てるように、そして頑張る人が報われる社会に近づけるように。
大田区が誰も取り残さないまちになることを願っております。
私もその一端を担えるように、引き続き考え学び、そして丁寧に取り組んでまいりたいと思います。
大田区議会議員 佐藤 なおみ
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