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4人の母として大田区の未来に「待った」をかけたい。出生率0.96と「区外流出」という静かなる警鐘

大田区議会議員の佐藤なおみです。
日頃より区政に対し温かいご理解とご支援を賜り心より感謝申し上げます。

さて、いつもは区の事業や活動についてご報告することが多いこのブログですが、今日は少し趣向を変え、一人の議員としてそして何よりも「4人の子どもの母」として大田区の「未来」に関する深刻な懸念について少し長くお話しさせていただきたいと思います。

わが家には4人の子どもがおります。
最初の子は社会人として独り立ちし、次の2人は大学生、そして末の子も高校生となりました。学費の請求書が届くたびに夫婦でため息をつきながらも(笑)、子育てという長い長い「プロジェクト」もようやく最終コーナーが見えてきたなと実感する毎日です。そんな私が今、議員として、そしてこの大田区で子育ての最終章を迎えている当事者として見過ごすことのできないデータに直面しています。

・大田区の合計特殊出生率「0.96」
・0歳~14歳の子育て世帯の転出超過

この二つの数字が意味するものを皆さんと共有し一緒に考えたいと思います。

第1章:「0.96」という数字の衝撃。それ以上に深刻な「静かなる流出」

まず、「合計特殊出生率 0.96」という数字です。
これは、一人の女性が生涯に産む子どもの数の推計ですが、国の平均(1.20)や東京都の平均(1.04 ※いずれも令和5年速報値)をも下回る衝撃的な低さです。大田区は23区の中でも「子どもが産まれにくいまち」になってしまっているという現実を突きつけられました。

もちろん、大田区は「産後ケア事業」の充実や「保育サービスの拡充」など、全国に誇れる子育て支援を必死に行ってきました。私も、4人の母として「あの頃、こんな制度があったなら」と羨ましく思うほどの手厚い支援が揃っています。しかし、私がそれ以上に深刻だと感じているのはもう一つのデータです。

それは、「0歳から14歳までの年少人口」が大田区から区外へ「転出超過」、つまり引っ越して入ってくるご家庭より、出て行ってしまうご家庭のほうが多いという事実が続いていることです。これは何を意味するでしょうか。

大田区で第一子を産みました。産後ケアも赤ちゃん訪問も手厚くて本当に助かりました
保育園にもなんとか入ることができました

——しかし、そのご家族が、お子さんが2歳、3歳、あるいは小学校に上がるタイミングで、大田区の外へ例えば近隣の県やもっと郊外へと引っ越して行かれているのです。大田区は産む場所としては良かった。けれど、“育て続ける場所”としては選ばれなかった。

この「静かなる流出」は、「0.96」という出生率の低さ以上に、大田区のまちづくりや区政の根幹を揺るがす、重い重い課題だと私は受け止めています。なぜ彼らは大田区を離れてしまうのでしょうか。その答えのヒントが私自身の過去の経験と現在の生活の中にありました。

さらに、最新の統計資料を改めて確認しますと、区が公表している「合計特殊出生率」の年次推移では、令和3年に大田区の合計特殊出生率が 1.09人 となっており、過去には東京都平均を上回っていた時期もあったことが分かっています。 また、人口推計によると、2020年以降、社会増減(転入超過-転出超過)の動きが転出超過側に傾いており、若年・子育て世帯を含む転出が増えていると推測されます。

これらのデータは、「子どもを産む・育てる場所としての魅力」だけでなく、「育て続けることのできる環境=転出を思いとどまらせる環境」が問われていることを私たちに改めて警告していると感じています。

第2章:私が栃木で得たもの大田区で失っているもの

今でこそ大田区で議員として活動し、子どもたちも大きくなりましたが、実は子どもたちがまだ本当に小さかった頃、わたしは栃木県で暮らしていました。当時のことを思い出すと今でも鮮明に蘇る光景があります。

玄関のドアを開ければ土の匂い。
子どもたちは泥だらけになって、田んぼのあぜ道を駆け回り、ザリガニを捕まえ、季節の野菜を近所の方からいただく。家の中でどれだけ騒いでも東京の集合住宅ほど神経質にならなくても良い「広さ」がありました。

何より違ったのは「地域の目」です。

近所のおじさんおばさんが、わが子もよその子も関係なく「コラ」と叱ってくれ「偉かったね」と褒めてくれる。ベビーカーを押していれば、「あら、何ヶ月? 大変ねぇ」と必ず誰かが声をかけてくれる。あの頃の私は、栃木というコミュニティの中で決して「孤育て(こそだて)」ではありませんでした。

もちろん大田区には栃木にはない圧倒的な利便性があります。
交通の便、医療の充実、教育の選択肢、文化的な刺激。私たちが大田区を選び今ここに住み続けている理由もまさにそこにあります。

しかしあえて問いたいのです。
私たちは、「利便性」を追求するあまり子育てにとって本当に大切な、あの栃木で当たり前にあった「ゆとり」を失ってはいないでしょうか。

・子どもが思い切り泣き走り回れる「空間的なゆとり」
・日々の生活費や家賃に追われず家族と向き合える「経済的なゆとり」
・隣近所と挨拶を交わし、いざという時に「助けて」と言い合える「精神的なゆとり」

この「ゆとりの無さ」こそが、子育て世帯を大田区から追い出し「とても二人目、三人目なんて考えられない」と、0.96という数字に繋がっているのではないか。私はそう仮説を立てています。

第3章:子育て世帯を襲う「二つの壁」

では、子育て世帯が感じる「ゆとりの無さ」の正体とは何でしょうか。私は、子どもが成長する過程でぶつかる「二つの大きな壁」が家族に区外への転出を決断させていると考えています。

壁その1:小学校入学前後の「住宅の壁」

第一の壁は「住宅の壁」です。
第一子が生まれ乳幼児期を過ごす間は、1LDKや2DKのアパート・マンションでも何とかなります。しかし、お子さんが3歳、4歳になり体力もつき、家中を走り回るようになると、近隣への「騒音」に神経をすり減らすようになります。

そして決定打となるのが小学校入学です。

● 自分の部屋や、勉強する机を置くスペースが欲しい
● 下の子が生まれたらもうこの広さでは限界だ

そうして家族は区内でもう少し広い「3LDK」などを探し始めますが、しかしここで現実を突きつけられます。大田区の特に利便性の良いエリアで家族4人・5人がゆったり暮らせる広さの住まいを求めると、その家賃や住宅ローンの負担は子育て世帯の肩に重くのしかかります。
その時ふと目に入るのが区外の広告です。

● 横浜・川崎エリアなら同じ値段でもっと広い部屋に住める
● 千葉・埼玉なら夢の“一戸建て”が手に入るかもしれない

彼らは、大田区が嫌いになったわけではありません。「子どもの成長」という喜ばしいはずのライフイベントが引き金となり、経済的合理性から「区外転出」という選択を、いわば“せざるを得ない”状況に追い込まれているのだと思います。

壁その2:中学・高校進学時の「教育費の壁」

そして、何とか「住宅の壁」をクリアし大田区に住み続けてくれたご家庭を襲うのが、第二のそして最も高く分厚い「教育費の壁」です。これはまさに今、大学生2名、高校生1名を抱える私が身をもって痛感している「現実」です。

子どもたちが小・中学生の頃はまだ「可愛いものだった」とすら思えてしまいます。
本当の“試練”は、高校受験そして大学受験から始まります。

● 塾や予備校の費用。
● 私立高校や私立大学を選べばその莫大な学費。

わが家も今、まさに家計のやりくりに頭を悩ませる日々ですが、この「教育費の壁」が目前に迫った時、ご家庭はどう考えるでしょうか。

● これから一番お金がかかる時期なのに、このまま大田区の高い家賃(あるいは固定資産税)を払い続けていけるだろうか
● 少しでも家計の固定費(=住居費)を抑えなければ、子どもたちに十分な教育を受けさせてあげられない

この結果、「教育費の捻出」という切実な理由で、住み慣れた大田区を離れるという第二の流出の波が起きてしまいます。

第4章:私たちが今、本当に取り組むべきこと

大田区はこれまで、「保育の受け皿」を増やすことに邁進してきました。それは、共働き世帯の「今、働きたい」というニーズに応える喫緊の課題でした。

しかし、その結果何が起きたか。
私たちは、「保育園に預けて夫婦で必死に働き、高い家賃と生活費を払いいずれ教育費の壁にぶつかって区外に出ていく」という、“短期間で疲弊してしまう”子育てモデルを助長してしまった面はないでしょうか。私が議員として4人の母として今、大田区に必要だと思うのは「“点”の支援」から「“線”の支援」への転換だと感じております。

「産後ケア」「保育無償化」といった、人生の特定の「点」を支援する(=Dot)施策はもちろん重要です。しかし、それ以上に「産まれてから、学齢期を終える(=大学卒業)まで」の18年間、22年間を家族が経済的・精神的な不安なく大田区で過ごし続けられるかという「線」で支える(=Line)発想への大転換が求められています。

具体的には、

● 若者・子育て世帯向けの良質で安価な住宅(公営・公社住宅)の供給は増やせないか
● 高校・大学の“給付型”奨学金制度を大田区独自に拡充できないか
● 利便性一辺倒ではない、あの栃木で感じたような、“地域のつながり”や“自然とのふれあい”を大田区という都市の中でどう再構築していくか

これらは、どれもお金がかかり時間がかかる難しい問いであり、「子育て支援課」だけの話ではなく「都市整備」や「産業振興」、「財政」も巻き込んだ、区政の根本的な「哲学」が問われる問題です。

まとめ:0.96は、未来からの「警告」

4人の子育てという「嵐」のような日々を終えようとしている今、私は心から思います。子育てとは「親」だけで行うものではありません。あの日、栃木のあぜ道で私と子どもたちに声をかけてくれた名も知らぬ地域の方々の眼差し。それこそが私を「母親」にしてくれたのだと。

「0.96」という数字
そして「子育て世帯の区外流出」

これは、大田区の未来から私たちに突きつけられた痛烈な「警告」です。

このまちの「ゆとり」は今、大丈夫ですか?
このまちで親たちは笑えていますか?
このまちで子どもたちは健やかに、その未来を信じられていますか?

私は私の子どもたちが、そしてその次の世代が、「やっぱり大田区っていいね」「ここで子育てがしたいね」と心から思えるような、そんな大田区の未来を決して諦めたくありません。4人の母としてそして大田区議会議員として。

この「静かなる警鐘」に真摯に耳を傾け、このまちの「ゆとり」を取り戻すため皆さんの声とともに取り組んでいきたいと思います。
長い文章を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

大田区議会議員 佐藤 なおみ

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