はじめに ― 私の原点と届けたい声
シングルマザーとして四人の子どもを育てながら働いていたあの頃の私は、今日という一日をどうにか乗り越えることで精一杯で、未来のことを考える余裕はほとんどありませんでした。栃木で暮らしていたあの時期は、仕事も家事も育児もすべてを背負いながら、何か一つが崩れれば生活そのものが揺らぐような不安の中で必死に生きていました。その中で私を救ってくれたのが、市営団地の抽選に当選したことでした。ほんの一枚の通知が、生活を立て直すための大きな扉を開いてくれたのです。
家賃負担が民間賃貸の半分以下となり、それまで毎月限界まで切り詰めていた生活費に少しずつ余裕が生まれました。子どもたちの学用品や給食費、必要な教材費などを安心して用意できるという感覚が戻り、あれほど重くのしかかっていた将来への不安が、ほんの少しですが和らいでいきました。狭い団地の部屋で、子どもたちが安心して眠る姿を眺めながら「この先も歩いていけるかもしれない」と思えたあの夜の感覚は、今も私の心の中に残り続けています。
この経験が、政治を志すきっかけになりました。あの頃の私のように、毎日を懸命に生きているにもかかわらず制度に手が届かず、不安を抱えながら子育てや仕事を続ける人たちが大勢います。制度は必ずしも万能ではありませんが、適切に使うことができれば人生の再スタートを支えてくれるものです。だからこそ私は、制度を“知っている人だけのもの”にせず、誰もが使えるように、もっとわかりやすく、もっと身近に整えていきたいと強く思っています。
なぜ私は“住まいの安定”を訴えるのか
住まいは、生活の基盤であると同時に心の拠りどころでもあります。栃木での団地入居は、単に家賃が下がったという話ではなく、生活が安定すれば働き方の選択肢も広がり、子どもたちの未来に向けて余裕を持って考える時間が生まれます。日々の暮らしが不安定な状態では、どれだけ努力しても将来を思い描く余裕さえ持てませんでした。
非正規雇用として働いていた私は、同じ場所で同じ業務をこなしていても待遇に大きな差がある現実を前に、自分の努力だけでは越えられない壁があるということを痛感しました。だからこそ、住まいの安定は“屋根の確保”にとどまらず人が自分らしく生きるためのスタートラインだと考えています。
大田区で暮らすひとり親家庭の方々からも、住まいの不安は日常の様々な不安につながるという声を多く伺います。住まいが安定し生活にゆとりが生まれることで、ようやく働き方や子育てへの希望が見えてくるのではないでしょうか。
今、大田区で「住まいの支援」はどこまで整っているか
大田区では、ひとり親家庭を含む「住宅確保要配慮者」を対象とした支援制度がいくつか設けられていますが制度が分散しており、全体像が見えにくいという課題も指摘されています。しかし、制度が重層的で全体像が見えにくいため必要な人が支援にたどり着けないという課題もあります。
● 住宅・空き家相談窓口
民間賃貸での入居が難しい方に対して、居住支援法人等と連携した住宅相談が行われており、保証人や初期費用といった課題についても、利用可能な制度や支援策を組み合わせながら対応が図られています。不動産事業者と連携した支援が行われるケースもあり、状況によっては行政や関係機関の後押しによって、入居につながる例も見られます。
● 区営住宅・公社住宅・都営住宅の抽選制度
区営住宅や都営住宅では、住宅困窮度を考慮する募集方式が設けられており、ひとり親世帯もその対象となっています。ただし抽選倍率は募集時期によって異なり、募集時期や住宅の種類によっては、東京都全体で8〜15倍程度の倍率になることもあり、需要の高さがうかがえます。住宅需要の高さを考えると、希望者全員に行き渡る状況とは言えないものの、確かな支援の入口にはなっています。
● 国・東京都との連携による住宅支援
国の「住宅確保要配慮者支援モデル事業」や東京都の相談窓口と連動し、国や東京都の制度と連携しながら、住まいに関する課題を他の生活支援と結びつけようとする取り組みが進められていますが、支援を一体的に届ける体制はなお発展途上にあります。
こうした制度があることで、家賃負担の軽減や入居のハードル低減を求める方にとって希望が生まれますが、制度の存在だけでは十分とは言えません。
それでも“制度”だけでは届かない声がある理由
私が区議になってから、多くのひとり親の方々から、住まいや生活に関するご相談をいただくようになりました。制度があっても使えない理由は一つではありません。
* 収入基準に“わずかに届かない”ことで対象外になってしまう
* 保証人を頼める人がいない
* 子どもの人数が多いと入居を断られることがある
特に保証人問題は深刻で、頼れる人がいない家庭ほど不利な状況に立たされます。制度の設計自体には理念があっても、現場の実情に合わない部分が残っているため、“制度のすき間”に落ちる家庭が少なくありません。
また、制度そのものを知らないために、困ったままの状態が続いてしまうケースも多くあります。役所に来られる人だけではなく、そもそも声を上げにくい人のところまで支援を届けるためには、行政と地域のつながりが不可欠です。
住まいだけではない ― 働き方・子育て・地域の支えが必要
住まいの問題は、働き方や子育ての問題と切り離せません。ひとり親家庭は、子どもの急病や不規則な勤務によって仕事を休まざるを得ないことが多く、職場の理解が十分でない場合は離職のリスクも高まります。
私自身、派遣社員として働いていた頃、子どもが熱を出すたびに休みを取らざるを得ず、そのたびに仕事と子育ての両方に申し訳なさのような気持ちを抱えていました。働ける場所があっても、安定して働き続けられる環境でなければ生活は好転しません。
さらに、地域のつながりは大きな力になります。栃木時代、近所の方が子どもを預かってくれたり、ママ友が買い物を代わってくれたり、たくさんの小さな支えが私と子どもたちを救いました。大田区にもこうした力は息づいており、行政が後押しすることで、さらに強い“支え合いの街”になると感じています。
私が区政に求めることとは ― 具体案
私は大田区で、次のような施策を重視し様々検討していけたらと考えております。
1. 住宅支援の拡充と申請の簡素化
抽選枠や優遇枠の充実、書類の簡略化などにより、より多くの家庭が制度を利用しやすくすること。
2. 保証人問題の解消に向けた仕組みづくり
行政が紹介する保証人不要住宅の拡大や、保証料助成制度の強化を進めること。
3. 就労支援と子育て支援の連携強化
ひとり親が働き続けられる環境の整備、柔軟な働き方への企業支援、子どもの急病時に頼れる体制の構築など。
4. 地域の助け合いネットワークの推進
ボランティア団体や民生委員、町会などとの連携を強め、“声を出しにくい家庭”に支援を届ける方法を広げること。
これらは単独で効果を発揮するものではなく、住まい・働き方・子育てをつなげ、家庭ごとに異なる状況に応じて支援できる柔軟な体制が求められます。
未来へ ― 子どもたちに暮らしの安心を手渡すために
もしあの時、市営団地に入れなかったら、もし支援制度の壁にぶつかって諦めていたら。おそらく私は今、この大田区で皆さんに向けて政策を語る立場にはいなかっったと思います。あの頃の私は、毎日必死で生活を守ることで精一杯でした。しかしその経験があったからこそ制度のありがたさも、そして制度に届かない苦しさも、どちらも深く理解できます。
“住まいの安定”は人生を立て直すための第一歩であり、働き方や子育ての安心はその先の未来を支える力になります。人が助けを必要とするとき、制度がそこにあるだけでは不十分で、届く形で整えられてこそ意味があります。私はこれからも制度のすき間に落ちてしまう人が一人でも減るよう、丁寧に声を聞き現場に寄り添いながら政策を進めていきたいと思います。
そして、最後にお伝えしたいのは──
私はかつて、助けを求めることすら難しかったひとり親の一人でした。だからこそ、同じ立場で悩んでいる方の気持ちに寄り添うことができます。経験してきた道のりが今度は誰かの力になれると信じています。大田区で暮らしていて住まいや生活に不安がある方、どうか一人で抱え込まずいつでもお気軽にご相談ください。わたしは区民の皆さんの声に耳を傾け共に歩む準備ができています。
大田区議会議員 佐藤 なおみ
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