皆様、こんにちは。大田区議会議員の佐藤なおみです。
いつも区政への温かいご理解とご協力を賜り、心より感謝申し上げます。
この記事では、日々の活動報告と共に、区政の重要課題について私の考えを皆様と共有させていただいております。中でも、この数年間、私が最も心を痛め、そして最も力を注いできた課題が「羽田空港の新飛行ルート問題」です。
2020年3月の運用開始以来、皆様の暮らしは一変しました。窓を閉ざしても室内に響き渡る轟音。お子様の寝顔を見ながら、この騒音が健やかな成長に影響しないだろうかという不安。穏やかだったはずの空を見上げるたびに感じる、言いようのない圧迫感……。私の元には、そうした悲痛なお声が毎日のように寄せられています。
「国が決めたことだから、もう覆らないのでは」「騒音には慣れるしかないのか」といった諦めの声が聞こえてくることも少なくありません。しかし、本当にそうでしょうか。
本日、私はこの問題の根源にあるものを皆様と共有し、私たちに何ができるのかを共に考えるため、この記事を書きました。単なる問題提起に留まらず、歴史的経緯、データに基づく現状分析、海外事例との比較、そして具体的な解決策の模索まで、皆様と共に考えるための徹底解説です。大変長い文章になりますが、私たちの未来を守るため、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。
第1章:失われた「原則」~私たちはどんな空の下で暮らしていたのか~
この問題を理解するためには、まず私たちが「何を失ったのか」を正確に知る必要があります。2020年以前、大田区と羽田空港はどのような関係にあったのでしょうか。
「東京湾上空ルート」という歴史的な知恵
言うまでもなく、大田区は空港の「お膝元」として、長年にわたり空港と共に発展してきました。固定資産税による財政的な恩恵、関連企業による雇用の創出など、その存在が区の活力の一部であったことは紛れもない事実です。
しかし、その共存関係には、住民の生活環境を守るための、決して破られてはならない「大原則」が存在しました。それが、航空機の離着陸は原則として東京湾上で行うという運用方法です。
これは単なる慣例ではありません。1960年代以降、航空機騒音が全国的な社会問題となる中で、訴訟なども経て積み上げられてきた「歴史的な知恵」であり、人口が密集する首都圏の平穏を守るための「防波堤」でした。飛行機の姿は見えても、その轟音が日常生活を脅かすことは、少なくとも区内の多くの地域ではありませんでした。この大原則があったからこそ、「空港との共存」というデリケートなバランスが、かろうじて保たれていたのです。
この「静穏な空」が当たり前のものではなかったこと、そしてそれが先人たちの努力によって守られてきた財産であったことを、私たちは今、痛感しています。
第2章:決定の「不透明性」~なぜ私たちの頭上を飛ぶことになったのか~
では、なぜこの歴史的な大原則は、いとも簡単に覆されてしまったのでしょうか。国の決定プロセスを振り返ると、そこには「住民不在」と断じざるを得ない、数多くの問題点が浮かび上がります。
「経済効果」の陰で軽視されたもの
国(国土交通省)が新ルート導入の根拠として掲げたのは、「首都圏の国際競争力強化」と、それに伴う「経済効果」でした。2014年に設置された国の「首都圏空港機能強化技術検討小委員会」などで議論が始まり、国は「羽田空港の処理能力を年間約1.7倍に拡大させ、約6.5兆円の経済波及効果が見込まれる」と喧伝しました。
しかし、その議論の過程で、私たちの暮らしへの影響はどれほど真剣に検討されたのでしょうか。ルート案が具体化する中で開催された住民説明会は、その実態を如実に物語っています。
多くの方が参加されたと思いますが、会場で感じたのは、国と住民との間にある深い溝でした。専門用語が並ぶ一方的な説明、限られた時間で打ち切られる質疑応答、そして「ご意見は承りました」という言葉で吸収されてしまう、私たちの切実な不安の声。あれを「丁寧な合意形成」と呼ぶことは出来ないかと思います。
不十分だった環境影響評価(アセスメント)
さらに問題なのは、事業の環境への影響を事前に調査・予測・評価する「環境影響評価(アセスメント)」です。国が示した騒音予測値に対し、住民からは「実態より甘いのではないか」という指摘が相次ぎました。また、騒音による健康への影響、特に子どもたちの学習環境や住民の睡眠への具体的な影響評価は、極めて不十分なまま計画が進められました。
経済効果という大きな「お題目」の陰で、私たち一人ひとりの暮らしの質、健康、そして平穏に暮らす権利がないがしろにされているのではないか、それが、この決定プロセスの本質であったと私は考えています。
第3章:データが示す「不都合な真実」~新ルート下の日常とは~
運用開始から5年以上。私たちの「体感」は、今や客観的なデータによっても裏付けられています。国が「丁寧な運用」を強調する一方で、データは私たちの日常がいかに深刻な状況にあるかを冷徹に示しています。
① 騒音レベルの実態:「静穏」とはほど遠い現実
まず、騒音の大きさを示す「デシベル(dB)」について、身近な音の目安をご覧ください。こちらは、騒音レベルを示す「デシベル(dB)」が、日常生活のどのくらいの音に相当するかを示した表です。
騒音レベル | 音の目安 |
90 dB | 大声による独唱、騒々しい工場の中 |
80 dB | 地下鉄の車内、ピアノの音(直近) |
70 dB | セミの鳴き声(直近)、騒々しい事務所の中 |
60 dB | 普通の会話、デパートの店内 |
50 dB | 静かな事務所、家庭用エアコンの室外機 |
40 dB | 図書館の中、静かな住宅地の昼 |
その上で、大田区が独自に測定した区内定点(仮:大森中学校屋上)の騒音データを見てみましょう。
[Chart: 大田区内定点における南風時運用時間帯の騒音レベル推移(平日平均)]
(※縦軸に騒音レベルdB、横軸に時間を示した折れ線グラフをイメージ。15時~19時の間に、非運用時(50dB前後)から80dB近くまで急上昇する複数のピークが描かれている)
このグラフが示すのは、南風時の運用時間帯である午後3時から7時の間に、70dBを超える騒音、時には80dBに迫る轟音が、数分おきに繰り返し発生しているという紛れもない事実です。これは「地下鉄の車内」に匹敵する騒音レベルであり、窓を閉めていても、会話やテレビの音を遮るのに十分な大きさです。これが「日常」となってしまったのです。
② 健康への影響:WHOの警告と私たちの現実
さらに深刻なのは、健康への影響です。WHO(世界保健機関)は、環境騒音に関するガイドラインで、健康への悪影響を防ぐため、航空機騒音について「屋外で年間平均45dB未満」にすることを強く推奨しています。
こちらは、WHO(世界保健機関)が健康への影響を防ぐために強く推奨している航空機騒音の基準値と、実際の測定値を比較した表です。
項目 | WHOの強い推奨値(屋外・年間平均) | 大田区内定点の測定値(運用時間帯) | 評価 |
航空機騒音 | 45 dB未満 | 70~80 dB(ピーク時) | 大幅に超過 |
言うまでもなく、現状はWHOの基準値を絶望的に上回っています。継続的な騒音暴露は、単に「うるさい」という不快感に留まらず、睡眠妨害、ストレスの増大、子どもの学習能力の低下、さらには高血圧や心血管疾患のリスクを高めることが、数多くの医学研究で指摘されています。これは、私たちの命と健康に関わる人権問題なのです。
③ 落下物と資産価値:消えない不安
幸いにも、これまで区内で大きな落下物事故は発生していません。しかし、国内外では航空機からの部品や氷塊の落下事案が実際に報告されています。国は「安全対策は万全」と繰り返しますが、機械である以上、リスクをゼロにすることは不可能です。「万が一」が起きてからでは遅いのです。この拭いきれない不安は、住民への深刻な心理的負担となっています。
また、こうした騒音やリスクが、地域の不動産価値に与える影響も無視できません。長期的に見れば、住環境の悪化が資産価値の下落に繋がることは、多くの専門家が指摘するところです。
第4章:「固定化」の先に待つもの~なぜ今が正念場なのか~
そして今、私たちはこの問題における最大の岐路に立たされています。それが、国が進めようとしているルートの「固定化」です。
「固定化」とは、現在「暫定的な運用」とされている新ルートを、恒久的なものとして正式に位置づけることを意味します。これが実現すれば、ルートの見直しや撤回は極めて困難になります。航空会社は長期的な運航計画を立てやすくなり、国にとっては「安定的な空港機能の確保」という目的が達成されるでしょう。
しかし、それは「住民の苦しみの固定化」に他なりません。
私たちの声が届かないまま、この異常な日常が「恒久的なもの」として確定されてしまう。それだけは認めるわけにはいかないのではないでしょうか。だからこそ「今」がこの流れを食い止めるための最後の正念場と考えております。大田区議会および大田区長は、この「固定化」に対し明確に反対の意思を表明しています。
第5章:海外事例に学ぶ~世界の空港都市はどう向き合っているか~
「経済のためには仕方ない」という声に対し、私たちは世界に目を向けるべきです。世界の主要空港都市は、空港機能と住民の生活環境の調和をどのように図っているのでしょうか。
アムステルダム・スキポール空港(オランダ):
厳格な夜間飛行制限(カーフュー)を導入し、住民の睡眠時間を確保しています。
ロンドン・ヒースロー空港(イギリス):
騒音レベルに応じて航空会社に課金する「騒音課金制度」や、騒音の大きい旧型機の乗り入れを制限することで、航空会社の自主的な騒音対策を促しています。
フランクフルト空港(ドイツ):
世界で最も厳格とされる騒音監視システムを持ち、住宅地上空の飛行を可能な限り避ける運航方式(急上昇・急降下)を義務付けています。
これらの事例が示すのは、「経済と環境の両立は可能である」という事実です。技術的な工夫や厳格なルール作りによって、空港の利便性を損なうことなく、住民の生活を守る努力が世界では行われています。それに比べ、現在の日本の対策は十分と言えるでしょうか。私たちには、海外の知見に学び、より良い解決策を国に提案していく責務があります。
第6章:絶望から行動へ~区として、区議として、私たちにできることの全て~
では、この巨大な問題に対し、私たちは具体的に何をすべきなのでしょうか。諦めることなく、考え得る全ての行動を起こす。その決意のもと、私が取り組むべきと考える具体的な方策をお示しします。
【議会の総意】意見書・決議による不断の要求:
大田区議会は、これまでも「新飛行ルートの撤回・見直し」「騒音・落下物対策の抜本的強化」「固定化の断固反対」などを求める意見書を全会一致で採択し、国に提出してきました。これは議会の最も強い意思表示です。今後も、区民の皆様の声を背に、この議会の総意を繰り返し、国に求めて参ります。
【科学的根拠】区独自の調査とデータに基づく提言:
国のデータだけに頼らず、区として独自に、より多地点での騒音測定や、住民の健康への影響を追跡する疫学調査を専門機関に委託し、実施することを提案します。その科学的根拠をもって、「これだけの被害が出ている」という事実を国に認めさせ、具体的な対策へと繋げます。
【広域連携】ルート下自治体との「連合戦線」の構築:
この問題は、大田区だけの問題ではありません。品川、渋谷、新宿、港、目黒、そして埼玉、神奈川、千葉の各自治体と公式な「首都圏飛行ルート被害自治体連絡会(仮称)」を結成し、首長や議会が一体となって国と交渉する体制を構築します。個々の「点」の力を、大きな「面」の圧へと変えていきます。
【法的手段】あらゆる可能性の模索:
話し合いで解決しない場合、最終的な手段として、公害等調整委員会への調停申請や、住民による集団訴訟といった法的手段も視野に入れるべきです。平穏に生活する権利は、憲法で保障された基本的人権です。その権利を守るため、あらゆる可能性を排除することはないと思います。
【住民参加】皆様の声が最大の力です:
そして何よりも重要なのが、住民の皆様一人ひとりの声です。
議会への陳情・請願: 皆様の声を、議会の正式な議題とするための重要な制度です。
国への意見提出: 国土交通省が実施するパブリックコメントなど、直接声を届ける機会を活用しましょう。
情報の共有・拡散: SNSなどを通じて、この問題の現状をより多くの方に知っていただくことも、世論を動かす大きな力となります。
終章:私たちの空と未来を取り戻すために
ここまで、大変長い道のりにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
この羽田新ルート問題は、単なる一部地域の騒音問題ではありません。これは、国の政策決定プロセスにおいて、国民一人ひとりの暮らしや声がどのように扱われるのかという、我が国の民主主義のあり方そのものが問われている問題です。
「経済のためなら、多少の犠牲は仕方ない」という考え方がまかり通れば、私たちの暮らしはいつ、どこで脅かされるか分かりません。子どもたちの世代に、安心して空を見上げられる、平穏な日常を残せたらと考えております。
この問題について、さらに詳しいご説明や、ご意見交換の場も設けてまいりたいと考えております。皆様の貴重なお声をお聞かせください。宜しくお願い致します。
大田区議会議員 佐藤 なおみ
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